認知症対応型通所介護の開業までの流れ・立ち上げのポイント



高齢化が進む現代において、様々な介護サービスのニーズが高まっています。
厚生労働省の発表では、2025年には高齢者のうち5人に1人が認知症という推計が出ており、認知症の高齢者に対するニーズは特に高まっているといえます。地域の中で、認知症の高齢者が増えていながらも認知症に特化したサービスの不足を感じている方は「認知症対応型通所介護を開業しよう」と考えているのではないでしょうか。
この記事では、認知症対応型通所介護事業を開業するまでの流れと満たさなくてはいけない条件、開業資金と資金調達方法などを解説しています。

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目次

認知症対応型通所介護とは?

認知症対応型通所介護とは、認知症の高齢者に対して、専門的なケアや心身機能の維持・向上を目指すための機能訓練、レクリエーションを提供するデイサービスです。
「認知症対応型通所介護」と「一般的な通所介護」では、以下のような違いがあります。

認知症対応型通所介護 地域密着型通所介護 通所介護
分類 地域密着型サービス 地域密着型サービス 居宅サービス
利用者 要介護認定
認知症の診断
要介護認定 要介護認定
サービス実施地域 同一市町村 同一市町村 同一市町村に限られない
定員 12人以下 18人以下 19人以上
指定権者 市町村 市町村 都道府県

認知症対応型通所介護を開業するまでの流れ

ここでは認知症対応型通所介護を開業するまでに必要な手続きを、①開業の検討、②物件と設備の手配、③採用、④指定申請に分けて順序だてて解説します。

1.開業の検討(市場調査・市町村への相談・事業計画書の作成)

市場調査・競合調査

認知症対応型通所介護の開業を検討するには、まず開業するエリアの市場調査が必要です。
具体的な調査内容は、以下のようなことが挙げられます。

市町村(指定権者)への相談

市町村(指定権者)の担当窓口へ開業についての相談を行いましょう。開業する際の具体的な要件や手続き、市町村等が実施している補助金などの情報を確認することができます。

事業計画書の作成

『事業計画書』とは、『事業の見通しを立てる』ために作成する資料のことです。
開業に向けて「どのような事業を行うのか?」や「その事業で経営は成り立つのか?」といったことを中心に記載します。

2.開業準備(法人設立・資金調達・物件契約・備品等の調達・職員採用)

法人設立

認知症対応型通所介護事業所を開設するためには「法人であること」が必要になります。
そのため、法人として登記していない場合は、法人の設立登記手続きを行い、既に法人を設立し、別の事業を実施している場合は、定款の目的の変更等を行いましょう。
介護事業を運営できる法人(法人格)には、株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人、社会福祉法人などたくさんの種類がありますので、設立要件、設立費用、税制の取り扱いなどを把握して、自身に合った法人(法人格)を選びましょう。
設立費用が少なく、設立するまでの期間が短期間である株式会社や合同会社がよく選ばれています。

資金調達

開業時の資金調達方法としては、『自己資金』と『金融機関からの融資』を組み合わせるケースが多いです。まずは、「全体でいくら資金が必要なのか?」を計算し、「自己資金でいくら用意できるのか?」を確認しましょう。
自己資金とは、自身が所有・集めた資金等のうち、事業に投資できる資金のことです。
金融機関から融資を受ける際は、開業資金の総額の10分の1~3分の1は自己資金として用意する必要があると言われています。
金融機関に融資の相談をする場合には、金融機関のホームページ等から融資制度についての情報を集めて、必要な書類を作成し、相談の電話をかけます。

【融資を受けるために必要な書類の例】

物件契約

事業で使う物件は、物件情報の収集、現地の確認、契約という流れになります。
まず、インターネットでの検索や不動産仲介会社へ訪問をして、候補の物件の情報収集を行います。
設備基準や自身の希望する条件が満たされていることを確認したうえで物件を契約をしましょう。

備品等の調達

開業するにあたって以下のような備品を調達します。

職員採用

認知症対応型通所介護は、単独型および併設型の場合、管理者が常勤で1人、生活相談員が1人以上、機能訓練指導員が1人以上、介護職員または看護職員が2人以上、を最低限配置しなくてはいけません。そのため、開業するためには採用活動を行う必要があります。
介護業界では、人手不足が深刻な問題となっていることから、採用活動が難航することが予測されます。開業時期までに採用が間に合うように、様々な媒体を通じて採用活動を行いましょう。

【開業時に利用されている求人媒体】

3.指定申請(申請書類の作成・提出)

認知症対応型通所介護を開業するためには、事業を実施するための許可をもらうために、指定権者(市町村)に指定申請を行います。指定申請手続きでは、以下のような指定申請書及び添付書類を作成・準備し、提出します。
申請書類や期日は指定権者のホームページ等で確認することができるので、指定申請前に研修の受講が必要な都道府県もあるようなので早めにスケジュールの確認をしましょう。

【指定申請書・添付書類の例】

※書類は例示です。実際に必要となる書類は、それぞれの管轄の指定権者(市町村)にご確認ください。

4.審査・決定(実地調査・指定通知書)

実地調査

実地調査とは、指定申請で提出した書類上だけでは確認が取れない事項等について、市町村の担当職員が開設予定の事業所を訪問し、現地での調査を行うことです。指定申請に必要な書類を提出・書類審査後、書類に問題がなければ実地調査を行います。

指定通知書

実地調査を経て問題がなければ、市町村から指定通知書が発行され届きます。指定通知書を受領した施設は、通知書記載の指定年月日から介護サービスを開始することができます。

5.開業

ここまで手続きが完了することでようやく開業することができます。

認知症対応型通所介護の指定基準とは?

認知症対応型通所介護の指定基準として定められている人員基準、設備基準、運営基準について解説します。

認知症対応型通所介護の人員基準とは?

認知症対応型通所介護の人員基準には、事業を運営する上で最低限配置しなくてはならない職種や人数などについて以下のように定められています。

管理者

配置基準 資格要件
常勤専従で1人 厚生労働大臣が定める研修を修了している者

※管理者は、事業所の管理業務に支障がない場合、他の職務等を兼ねることができます。
※厚生労働大臣が定める研修とは、「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準及び指定地域密着型介護予防サービスの事業の人員、設備及び運営並びに指定地域密着型介護予防サービスに係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準に規定する厚生労働大臣が定める者及び研修(平成24年3月13日厚生労働省告示第113号)」に記載があり、「単独型・併設型指定認知症対応型通所介護事業所、共用型指定認知症対応型通所介護事業所、指定小規模多機能型居宅介護事業所、指定認知症対応型共同生活介護事業所及び指定看護小規模多機能型居宅介護事業所を管理及び運営していくために必要な人事管理、地域との連携その他の事項に関する知識及び技術を修得するための研修」のことを言います。

生活相談員

配置基準 資格要件
専従で提供日ごとの勤務延時間数をサービス提供時間数で割った数が1人以上 社会福祉主事
社会福祉士
精神保健福祉士
上記と同等以上の能力を有すると認められる者

生活相談員の勤務延時間数には、利用者の地域生活を支える取り組みのために必要な以下のような時間も含めることができます。

機能訓練指導員

配置基準 資格要件
1人以上 理学療法士
作業療法士
言語聴覚士
看護職員
柔道整復師
あん摩マッサージ指圧師
はり師又はきゅう師(※)

※はり師及びきゅう師については、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員、柔道整復師又はあん摩マッサージ指圧師の資格を有する機能訓練指導員を配置した事業所で、6ヵ月以上、機能訓練指導に従事した経験を有する者に限るとされています。

介護職員・看護職員

配置基準 資格要件
2人以上
・専従で1人以上及び勤務している時間数の合計をサービス提供時間数で割った数が1人以上
・常時1人以上となるように配置
看護職員は看護師もしくは准看護師
介護職員は資格要件なし

認知症対応型通所介護の設備基準とは?

認知症対応型通所介護の設備基準には、事業を運営する上で最低限準備しなくてはならない設備や備品などについて以下のように定められています。

【認知症対応型通所介護で必要な設備・備品の例】

認知症対応型通所介護の運営基準とは?

認知症対応型通所介護の運営基準には、事業所が適切なサービスを提供するために、提供するサービスの内容や提供方法、必要な書類や記録、取り組みなどが規定されています。

【認知症対応型通所介護の運営基準の項目】

認知症対応型通所介護の開業資金はどれくらい必要なの?

認知症対応型通所介護事業を開業するにあたって、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。おおよその金額とその内訳をご紹介します。

認知症対応型通所介護を開業資金の目安は約1,000~1,500万円

建物を賃貸する場合、認知症対応型通所介護の開業資金の目安として、『約1,000~1,500万円』は必要になるでしょう。

法人設立費用

法人を設立する際、法人格によって登録免許税などに違いがあります。株式会社や合同会社を設立する場合は、おおよその設立費用として以下の金額がかかります。

物件の契約に係る費用

ここでは賃貸物件を借りることを前提に物件契約にかかる費用を試算します。

設備・備品の購入費用

『備品等の調達』でご紹介した下記のような備品等の購入費用として、200万円~700万円ほどが必要となります。
特に、送迎用の車両は高額になるため、一括での購入、ローン、リースなど購入・支払方法の違いで必要となる開業資金に大きな差がでますので留意しましょう。

開業前の人件費・賃貸料

開業をする数か月前から人員と物件を確保する必要があるので、それに伴い人件費と賃貸料を支払う必要があります。

運転資金

開業し、サービスの提供を開始しても、開業当初は利用者数が少なく、また介護報酬の入金が約2カ月後からであることから、経営が安定するまでの期間の運転資金が必要になります。
運転資金は、毎月かかる経費(人件費や賃料、その他)の3カ月~6カ月分として、約300万円~600万円を準備しておきましょう。

開業資金の資金調達方法

日本政策金融公庫の融資が選ばれている

認知症対応型通所介護事業を開業するにあたって、金融機関の融資制度の情報を集め、融資を受ける金融機関を決定することになります。
介護事業の開業では、政府系金融機関である「日本政策金融公庫」がよく選ばれていますので、日本政策金融公庫の融資制度をいくつかご紹介します。

融資制度の種類 概要
ソーシャルビジネス支援資金 介護や保育など社会的課題の解決を目的とするサービス事業向けの融資制度
新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連) 新たに事業を始める事業主等で女性または35歳未満か55歳以上の方が利用できる融資制度

補助金がある自治体もある(例:埼玉県越谷市)

また、自治体によっては認知症対応型通所介護の開業時に活用できる補助金や助成金があります。
ここでは一例として埼玉県越谷市の補助金(令和5年度)について解説します。

概要

埼玉県地域密着型サービス等整備助成事業費等補助金とは、埼玉県で規定する「埼玉県地域密着型サービス等整備助成事業費等補助金」の活用により、越谷市を通じて補助金がおりる制度のこと

対象費用

整備にかかる工事費等

条件

埼玉県からの補助金交付を受けていること
※埼玉県からの補助金交付が受けられない場合、越谷市からの補助金交付はできません。

提出書類一覧

認知症対応型通所介護を開業したら儲かるの?

「認知症対応型通所介護は儲かるのか」を判断するために、厚生労働省の実施している介護事業経営実態調査から、収支差率(利益率)の推移をみてみましょう。

認知症対応型通所介護の収支差率の推移を見ると、2021年度に4.3%~9.1%の間で推移しています。報酬改定や感染症等の影響を受けていますが、十分に黒字を目指せる事業だと言えるでしょう。

(出展:厚生労働省令和2年度介護事業経営実態調査結果の概要、令和4年度、令和5年度介護事業経営概況調査結果の概要)

まとめ

認知症対応型通所介護を開業するにあたっては、自己資金を準備し、法人設立や物件・設備・備品の手配、採用活動、指定申請などの手続きを行う必要があります。
きちんと情報を集めたうえで、スケジュールを立てて開業準備を進めなければ、時間や費用を無駄に使ってしまうことになりますので注意しましょう!
この記事でご紹介した内容が皆様の開業準備のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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