【開業】福祉用具貸与/販売の開設・設立



福祉用具貸与事業所の開業を検討している皆様は、「独立して福祉用具貸与事業所を開設したいけど、どんな流れで準備していけばいいの?」や「開業するために必要な要件はあるの?」などといった疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、福祉用具貸与事業所の収支差率(利益率)や福祉用具貸与事業所を開業する流れ、条件などについてご紹介していきます。

人口芝の上に杖と車椅子のミニチュアが置いてある写真

目次

福祉用具貸与(レンタル)とは

福祉用具貸与(レンタル)は、要介護状態となった利用者様が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、心身の状況、希望およびその生活環境等をふまえ、適切な福祉用具を選ぶための援助、福祉用具の取り付け・調整などを行うサービスです。
福祉用具を貸与することで利用者様の日常生活上の便宜を図ること、ご家族の介護の負担を軽減することなどを目的として実施されています。福祉用具貸与の対象種目は、以下のように定められています。

【福祉用具貸与の対象種目】

  • 車いす(付属品含む)
  • 特殊寝台(付属品含む)
  • 床ずれ防止用具
  • 体位変換器
  • 手すり
  • スロープ
  • 歩行器
  • 歩行補助つえ
  • 認知症老人徘徊感知機器
  • 移動用リフト(つり具の部分を除く)
  • 自動排泄処理装置

要支援および要介護1の方は以下の種目について介護保険の利用が認められていませんが、身体の状態等によっては、要介護認定における基本調査結果に基づく判断や市町村への申請により、給付の対象となる場合もあります。

【要支援および要介護1の方が利用できない種目】

  • 車いす(付属品含む)
  • 特殊寝台(付属品含む)
  • 体位変換器(褥瘡の予防やケアに使用)
  • 床ずれ予防用具
  • 移動用リフト(つり具の部分を除く)
  • 認知症老人徘徊感知機器

福祉用具専門相談員とは

福祉用具専門相談員とは、介護が必要な高齢者が福祉用具を利用する際に、本人の希望や心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、専門的知識に基づいて福祉用具を選び、使用方法等の助言を行う専門職です。福祉用具貸与事業所には、福祉用具専門相談員を配置することが人員基準で義務付けられています。

特定福祉用具販売とは

特定福祉用具販売は、居宅において日常生活を営むのに支障がある要介護者に対し、要介護者の希望や状況に合わせ、入浴・排せつに用いるなど貸与には心理的に抵抗を感じるもの、あるいはもとの形態・品質が変化し再度利用することができない福祉用具の販売を行うサービスです。特定福祉用具販売では、以下の種目を対象に販売する事ができます。

【特定福祉用具販売の対象種目】

  • 腰掛便座
  • 自動排泄処理装置の交換可能部品
  • 排泄予測支援機器
  • 入浴補助用具(入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、入浴代等)
  • 簡易浴槽
  • 移動用リフトのつり具の部分

福祉用具貸与事業所の収支差率(利益率)は?

収支差率(利益率)とは、収入と支出の差を表す指標です。厚生労働省の 「令和4年度介護事業経営概況調査」によると、福祉用具貸与事業所の2021年度決算の収支差率(税引前収支差率・コロナ補助金を含む)は「3.4%」と、介護サービス全体の平均を上回っています。

福祉用具貸与 介護サービス全体
収支差率の平均(2021年度決算) 3.4% 3%

(出典:厚生労働省 令和4年度介護事業経営概況調査


また収支差率の分布を見ると、「5%〜10%」が最多、次いで「0〜5%」と、福祉用具貸与事業所は十分に儲かる可能性のある事業と言えそうです。

福祉用具貸与 収支差率分布

(出典:厚生労働省 令和4年度介護事業経営概況調査

福祉用具貸与事業所を開業するために必要な条件

福祉用具貸与事業所を開業するためには、以下の4つの条件を満たしている必要があります。

  • 法人格
  • 人員基準
  • 設備基準
  • 運営基準

それぞれ詳しく見ていきましょう。

開業の要件①法人格

福祉用具貸与事業所は個人事業主では運営することができないため、法人として登記する必要があります。
法人格は、株式会社や合同会社といった『営利法人』と、一般社団法人、特定非営利活動法人などの『非営利法人』の2つに大きく分けられます。
いずれの法人格でも福祉用具貸与を開設することができますが、それぞれ設立にかかる時間や費用、条件などが異なりますので、皆様の状況に合わせた法人格を選択しましょう。

開業時の法人形態について、 詳しくはこちらの記事をご覧ください

開業の要件②人員基準

福祉用具貸与の人員基準は、福祉用具専門相談員が常勤換算方法で2人以上、管理者が常勤専従で1人と決められています。

職種 配置基準 資格要件
福祉用具専門相談員 常勤換算方法で2人以上 保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、義肢装具士、都道府県知事が指定する福祉用具専門相談員指定講習事業者が行う講習の修了者

福祉用具貸与の人員基準について、 詳しくはこちらの記事をご覧ください

開業の要件③設備基準

福祉用具貸与事業所の設備基準には、事業を行う上で必要となる区画、設備、器材、備品等が定められています。

【設備基準に定められた設備および備品等の例】

  • 利用申込の受付、相談等に対応するために適切な区画
  • 福祉用具の保管のための設備※
  • 福祉用具の消毒のための器材※

※ただし、福祉用具の保管または消毒を他の事業者に行わせる場合は、保管のための設備、消毒のための器材を有していなくても構わないとされています。

開業の要件④運営基準

福祉用具貸与の運営基準には、事業を行う上で必要となる手続きや書類、業務内容、サービスの提供方針等が定められています。

【運営基準の項目例】

  • 内容及び手続の説明と同意
  • 提供拒否の禁止
  • サービス提供困難時の対応
  • 受給資格等の確認
  • 要介護認定の申請に係る援助
  • 心身の状況等の把握
  • 居宅介護支援事業者等との連携
  • 法定代理受領サービスの提供を受けるための援助
  • 居宅サービス計画に沿ったサービスの提供
  • 身分を証する書類の携行
  • サービスの提供の記録
  • 利用料等の受領
  • 管理者の責務
  • 運営規程
  • 業務継続計画の策定等
  • 福祉用具の取扱種目
  • 衛生管理等
  • 掲示及び目録の備え付け
  • 秘密保持等
    など

福祉用具貸与の運営基準について、 詳しくはこちらの記事をご覧ください

福祉用具貸与事業所を開業する流れ

福祉用具貸与事業所を開業する流れは以下のようになります。

【福祉用具貸与事業所を開業するステップ】

  • 法人設立
  • 事業計画書の作成
  • 開業資金の調達
  • 物件探し・契約
  • 従業員を採用
  • 備品等の調達
  • 指定申請
  • 請求ソフトの手配
  • 福祉用具の仕入れ
  • 利用者様の獲得

それでは、一つひとつのステップについて詳しく見ていきましょう。

①法人設立

まず、会社の目的や役員、株主等を決定し、定款、役員の同意書等の登記に必要となる書類を作成します。法人の種類は様々ありますが、福祉用具貸与事業所の場合、株式会社等の法人を設立して開設される場合が多いです。
書類を準備できたら、管轄の法務局へ書類を提出し、法務局の審査を経て、登記に必要な登録免許税や印紙税を納付すると手続きが完了します。例えば株式会社の設立には、登録免許税や印紙税などを合わせて『20万円』ほどの費用がかかります。

②事業計画書の作成

事業計画書は、指定申請時や金融機関から融資を受ける際に使う書類です。事業計画書には、どのような事業を行いたいのかという事業方針や、周辺の競合となる事業所、収支の見通しなどの情報を記載します。
事業計画書の書き方について、 詳しくはこちらの記事をご覧ください

③開業資金の調達

福祉用具貸与事業所を開業するためには、物件の契約料、内装工事費、法人設立申請費用、福祉用具の購入費、運転資金などといった開業資金が必要です。
開業資金の全てをご自身の貯蓄等から捻出できない場合は、金融機関から融資を受けることになり、政府系金融機関である「日本政策金融公庫」が選ばれています。また、事業所立ち上げの際や開業後に利用できる助成金・補助金もありますので、そちらも合わせて活用していくのがいいでしょう。

助成金・補助金について、 詳しくはこちらの記事をご覧ください

④物件探し・契約

福祉用具貸与事業所を開業するための物件は、設備基準を満たしている必要があります。また、設備基準以外にも、駐車場や賃料といった観点から、物件を探すことになります。
近年では、インターネット等を使った物件探しが一般的ですが、現地のスペース等を確認して、福祉用具の管理等を行うのに適しているかを確認してから物件を決めましょう。

⑤従業員を採用

福祉用具貸与事業者として「指定」を受けるためには、人員基準を満たす必要があります。そのため、指定申請を行う前に、求人を行い、面接を経て、従業員を採用することになります。
求人媒体は、ハローワーク以外にも、求人雑誌、インターネットの求人広告、人材紹介など様々な媒体がありますので、費用面での負担も考えながら採用活動を進めることになります。

⑥備品等の調達

福祉用具貸与事業所には、設備基準に定められた備品や消耗品等を準備する必要があります。オフィスデスクやオフィスチェアといったオフィス家具、PC、複合機などの事務機器、 福祉用具の衛生管理のための用品なども備えることになるので、納品にどれくらいの時間がかかるのか考慮しながら、計画的に準備を進めていきましょう。

⑦指定申請

福祉用具貸与事業所を開業するためには、「指定申請」という行政から許認可を受ける手続きを行う必要があります。
指定申請の書類の提出日は指定権者(都道府県または市)によって期日が決められていますが、開業希望月の『2か月前の末日』が期日となっているところが多いようです。
また、指定申請の前の段階で「事前相談」が必要となるケースもありますので、開業希望月の『3か月前〜6か月前』までに指定権者の担当窓口に開業について相談をしておきましょう。

福祉用具貸与事業所の指定申請に必要な書類の一覧

こちらでは福祉用具貸与事業所を開業する際に必要な書類の例として、埼玉県で福祉用具貸与の新規指定申請の際に必要になる書類を一覧でご紹介します。

【福祉用具貸与の指定申請書類の例】

  • 指定申請書
  • 指定に係る記載事項
  • 商業登記事項証明書(直近3ヶ月以内の原本)
  • 欠格事由に該当していない旨の誓約書
  • 土地・建物が賃貸にあってはその契約書の写し
  • 平面図
  • 設備・備品等一覧表
  • 主要な場所の写真
  • 福祉用具の保管及び消毒の方法
  • 従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
  • 資格が必要な職種の資格証明書
  • 運営規程
  • 苦情を処理するための措置の概要
  • 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
  • 介護給付費算定に係る体制等状況一覧表
  • 契約書・重要事項説明書
  • 業務管理体制に係る届出書
  • 介護サービス情報公表制度に係る基本情報報告様式

⑧請求ソフトの手配

福祉用具貸与事業では、サービスを提供した対価を国保連と利用者様へ請求することになります。開業後の請求業務をスムーズに行うためにも開業前に請求ソフトの導入を進めましょう。
請求ソフトには、請求データ作成、請求書発行、国保連への伝送などの機能を中心として、様々な種類があります。機能の種類や料金等はソフトによって異なるため、複数の請求ソフトを比較して、導入する請求ソフトを決めましょう。

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⑨福祉用具の仕入れ

利用者様に適切な福祉用具をレンタルできるよう、福祉用具を仕入れます。福祉用具のメーカーから直接自事業所で福祉用具を購入・保管するパターンと、購入せずに福祉用具のレンタル卸会社から必要な時だけレンタルするパターンがあります。
直接購入する場合は購入資金と福祉用具の保管場所が必要になってきます。レンタル卸会社から借りる場合は、購入資金や保管場所は少なくてすみますが、手続き等で納品が遅くなってしまうことがありますので、事業所の状況に合わせて仕入れ方法を検討しましょう。

⑩利用者様の獲得

開業日が決まったら、開業日に向けて、事業所を紹介するパンフレット、名刺、HPなどを作成し、利用者様を獲得できるように営業活動を行いましょう。
福祉用具貸与事業所の営業先としては、居宅介護支援事業所、病院、地域包括支援センター等が考えられます。

まとめ

ここまで、福祉用具貸与事業所の収支差率(利益率)や福祉用具貸与事業所を開業する流れ、条件などについてご紹介してきましたが、いかがでしたか。
福祉用具貸与事業所を開業するための指定を受けるためには、物件の契約や人材採用などを行って指定基準を満たす必要があります。指定を受けてからも、福祉用具の仕入れや営業など様々なことを行う必要がありますから、予定した開業日に滞りなく開業できるよう、適切にスケジュール管理を行って準備を進めていきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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