介護事業所・施設のBCP(業務継続計画)策定・運用・研修を一挙に解説!

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現在、介護事業所・施設においてBCP(業務継続計画)の策定は義務化されています。
これから事業所を開業する方や、作成したBCPの見直しを検討している方の中には「何から手を付ければいいか分からない」、「研修って何をすればいいの?」、「どういうふうに見直しをすればいいの?」と悩まれる方もいらっしゃるかと思います。
この記事では、介護事業所・施設におけるBCPについて、基礎から策定・運用のポイント、記載項目や留意点、研修・運用・見直しまで、詳しく説明していきます。

目次

介護事業所におけるBCP(業務継続計画)とは?

BCP(ビー・シー・ピー)とは Business Continuity Plan の略称で、業務継続計画と訳されます。
自然災害や感染症のまん延といった緊急事態に備え、企業や団体が事業を継続するためにどのように行動するか、具体的な指針等を定めた計画のことです。
昨今の自然災害の増加や感染症のまん延から、災害や感染症が発生した場合であっても、介護サービスを継続的に提供できる体制を構築するため、介護事業所・施設には、業務継続計画の策定が義務付けられています。

BCP策定の義務化と業務継続計画未策定減算

2024年度の介護報酬改定により、BCP(業務継続計画)を策定していないことへのペナルティとして「業務継続計画未策定減算」が創設されました。
2025年3月31日までは経過措置期間でしたが、現在はBCP(業務継続計画)が未策定である場合、減算が適用になります。
業務継続計画未策定減算の単位数、適用要件は以下です。

単位数

適用要件

以下の要件を満たしていない場合に減算が適用になります。

なお、BCPの周知、研修、訓練及び定期的な業務継続計画の見直しの実施の有無は、業務継続計画未策定減算の適用要件ではありません。

適切にBCPを策定・運用する5つのメリット

ここでは適切にBCPを策定し、運用するメリットを5つご紹介します。

法令遵守と減算の回避

これまでも説明してきたように、介護事業ではBCPの策定が義務付けられており、策定・運用していないと、行政から指導を受けることになり、業務継続計画未策定減算が適用になる場合があります。
そのため、適切にBCPを策定・運用することで、法令を遵守でき、また、経営状況に影響する減算を回避できるというメリットがあります。

利用者様を守ることに繋がる

BCPを策定することで、災害や感染症が発生した場合に速やかに対応できるようになり、利用者様の健康や生活を守ることができるというメリットがあります。

従業員を守ることにも繋がる

BCPの策定により、災害等発生時の担当者、優先業務、対応範囲などを明確にしておくことで、過度な労働負担を防止でき、従業員の安全を守ることができるというメリットがあります。

経営への影響の最小化

BCPを策定・運用することは、事業の継続と事業を中断した場合の早期の再開に役立つので、経営・事業活動への影響を最小化できるという点でもメリットになります。

地域への貢献にもなる

BCPを策定し、事業所・施設が災害や感染症が発生した場合に事業を継続し、福祉避難所等として活動できることは、地域貢献という点でメリットがあります。
また、災害等の発生に備えて、日ごろから地域とのコミュニケーションを取ることは、地域との信頼関係の構築に繋がります。

感染症BCP・自然災害BCPの策定・運用のポイント

ここからは、厚生労働省が公開している「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」および、「介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン」を参考に、策定、運用のポイントについてご説明します。

感染症BCP・自然災害BCPの策定・運用に共通するポイント

感染症BCP・自然災害BCPの策定・運用に共通するポイントとして以下の3点が挙げられます。

正確な情報集約と判断ができる体制を構築する

災害発生時や感染(疑い)者発生時の迅速な対応には、平時と緊急時の情報収集・共有体制、情報伝達フロー等の構築がポイントとなります。そのためには、以下の事項を明確にしましょう。

業務の優先順位を整理する

施設・事業所や職員の被災状況、感染状況によっては、限られた職員・設備でサービスの提供を継続しなければならないケースも想定されます。
そのため、職員の出勤状況、被災状況に応じて対応できるよう、業務の優先順位を整理しておくことが重要です。

計画を実行できるよう普段からの周知・研修、訓練を行う

BCPは、策定すれば終わりではなく、不測の事態が発生した時、迅速に行動できるように、関係者に周知し、平時から研修や訓練(シミュレーション)を行うことが求められています。
机上で設定した内容だけでは実際に災害等が起きた時に、計画通りに行動することは難しいので、平時に訓練等を行い、どのような行動を取るのかを周知しましょう。
また、研修や訓練を行ったなかで課題を発見した場合は、より良いBCPになるように更新しましょう。

感染症BCP策定・運用のポイント

感染症BCPを策定するためのポイントとして以下のようなことが挙げられます。

職員の確保

職員が感染者となってしまった場合、職員が不足する場合があります。
感染者と非感染者の入所者・利用者へのサービス提供の際は、可能な限り担当職員を分けることが望ましいとされます。
しかし、職員が不足した場合、こうした対応が困難となり、感染拡大のリスクが高まります。
そのため、施設・事業所内・法人内における職員確保体制の検討、関係団体や都道府県等への応援依頼などについても定めておきましょう。

自然災害BCP策定・運用のポイント

自然災害BCPでは「事前の対策」と「被災時の対策」に分けて、それぞれの対策やルールを決めましょう。

自然災害への「事前の対策」

自然災害の被災時の対策

感染症BCPに記載すべき項目

厚生労働省が公開している「感染症ひな形(入所系)」によると、入所系の感染症BCPに記載すべき項目は以下の通りです。
※訪問系の感染症BCPに記載すべき項目はこちらの記事をご覧ください。
※通所系の感染症BCPに記載すべき項目はこちらの記事をご覧ください。

分類 項目 詳細
1.総則
  • 目的
  • 基本方針
  • 主管部門
  • 全体像
-
2.平常時の対応
  • 対応主体
-
  • 対応事項
  • 体制構築・整備
  • 感染防止に向けた取組の実施
  • 防護具、消毒液等備蓄品の確保
  • 研修・訓練の実施
  • BCPの検証・見直し
3.初動対応
  • 対応主体
  • 感染疑い者の発生
-
  • 対応事項
  • 検査
  • 第一報
  • 感染疑い者への対応
  • 消毒・清掃等の実施
4.感染拡大防止体制の確立
  • 対応主体
-
  • 対応事項
  • 保健所との連携
  • 接触者への対応
  • 職員の確保
  • 防護具、消毒液等の確保
  • 情報共有
  • 業務内容の調整
  • 過重労働・メンタルヘルス対応
  • 情報発信

感染症BCPの留意点

感染症BCPを策定するうえで特筆すべき点や留意したい点について、介護サービス類型を入所系、通所系、訪問系に分けてご説明します。

入所系サービスにおける留意点

入所系サービスは、入所者に「生活の場」を提供しているため、サービスの提供を継続しながら施設内での感染拡大をいかに防ぐかという点に留意しましょう。

感染疑い者への対応

感染拡大防止体制の確立

通所系サービスにおける留意点

通所系サービスは、多数の利用者が集まる「通いの場」であるため、事業を継続するか、一時的に休業するかの判断に留意しましょう。

感染疑い者の発生

初動対応

休業の検討

感染拡大防止体制の確立

訪問系サービスにおける留意点

訪問系サービスでは、利用者の自宅というプライベートな空間でサービスを提供するため、利用者や家族の協力を得ながら、感染対策を徹底した上でサービスを継続することに留意しましょう。

感染疑い者への対応

感染拡大防止体制の確立

自然災害BCPに記載すべき項目

厚生労働省が公開している「自然災害ひな形(共通)」を参考にすると、自然災害BCPに記載すべき項目は以下の通りです。

分類 項目 詳細
1.総論
  • 基本方針
-
  • 全体像
-
  • 推進体制
-
  • リスクの把握
  • ハザードマップなどの確認
  • 被害想定
  • 優先業務の選定
  • 優先する事業
  • 優先する業務
  • 研修・訓練の実施、BCPの検証・見直し
  • 研修・訓練の実施
  • BCPの検証・見直し
2.平常時の対応
  • 建物・設備の安全対策
  • 人が常駐する場所の耐震措置
  • 設備の耐震措置
  • 水害対策
  • 電気が止まった場合の対策
  • 自家発電機が設置されていない場合
  • 自家発電機が設置されている場合
  • ガスが止まった場合の対策
  • 都市ガスか、LPガスかを確認する
  • ガスが止まった時に稼働させる設備と対応策を検討
  • 水道が止まった場合の対策
  • 飲料水
  • 生活用水
  • 通信が麻痺した場合の対策
  • 通信機器、通信機器のバッテリー(携帯電話充電器、乾電池等)を確保する
  • 通信手段を決め、「携帯カード」に盛り込む
  • 情報システムが停止した場合の対策
  • BCP等の災害対策の文書類を現物保管
  • PC、サーバのデータの定期的なバックアップ
  • 衛生面(トイレ等)の対策
  • トイレ対策
  • 汚物対策
  • 必要品の備蓄
  • 備品リストの整理
  • 計画的に備蓄
  • 賞味期限や使用期限を定期的にメンテナンス
  • 資金手当て
  • 手元資金(現金)を準備
  • 保険の適用範囲や補償内容等を確認
3.緊急時の対応
  • BCPの発動基準
-
  • 行動基準
-
  • 対応体制
-
  • 対応拠点
-
  • 安否確認
  • 利用者
  • 職員
  • 職員の参集基準
  • 「携帯カード」に参集ルールを記述
  • 施設内外での避難場所・避難方法
  • 施設内
  • 施設外
  • その他
  • 重要業務の継続
  • 検討結果をまとめる
  • 職員の管理
  • 休憩・宿泊場所
  • 勤務シフト
  • 復旧対応
  • 破損箇所の確認
  • 業者連絡先一覧の整備
  • 情報発信(関係機関、地域、マスコミ等への説明・公表・取材対応)
4.他施設との連携
  • 連携体制の構築
  • 連携体制構築の検討
  • 連携体制の構築・参画
  • 連携の推進ステップ
  • ①連携先との協議
  • ②連携協定書の締結
  • ③地域のネットワーク等の構築・参画
  • 連携対応
  • 事前準備
  • 入所者・利用者情報の整理
  • 共同訓練
5.地域との連携
  • 被災時の職員の派遣
  • 災害福祉支援ネットワークへの参画や災害派遣福祉チームへの職員登録
  • 福祉避難所の運営
  • 福祉避難所の指定
  • 福祉避難所の指定がない場合
  • 福祉避難所開設の事前準備

自然災害BCPの留意点

自然災害BCPを策定するうえで特筆すべき点や留意したい点について、介護サービス類型を入所系、通所系、訪問系に分けてご説明します。

入所系サービスにおける留意点

入所系サービスは、入所者にとって「生活の場」であるため、施設が被災したとしてもサービスの提供を中断できないという特性に留意しましょう。
災害発生後、外部からの支援が届くまで自力で事業を継続できるように備蓄(食料、水、衛生用品、感染対策物資など)も考慮します。

平時からの対応

災害発生時の対応

通所系サービスにおける留意点

利用者が日中に来訪する「通いの場」であるため、災害発生(または予見)時の利用者の安全確保と、安全な帰宅支援が重要となります。

平時からの対応

災害が予想される場合の対応

災害発生時の対応

訪問系サービスにおける留意点

職員が利用者の自宅を訪問するサービス形態のため、広範囲に点在する利用者と、移動中の職員の安全確保に留意しましょう。

平時からの対応

災害が予想される場合の対応

災害発生時の対応

厚生労働省のひな型や解説動画

厚生労働省がこちらのページで各種ひな型や解説動画を公開しています。
BCP策定の際はぜひ参考にしてください。

BCP策定後に行う研修の例

BCPは策定して終わりではなく、定期的に研修や訓練を行うことで、災害時に実際に行動できるようになります。
具体的な研修の例として、以下のような研修が紹介されていますので、ぜひ事業所・施設で実施する研修に含めましょう。

(1)防災意識の啓蒙

最近の事例共有などで災害への理解を深めます。

(2)自宅の防災

家庭の防災を教育します。
例:家具の転倒防止、水・食料の備蓄など
例:内閣府 【防災シミュレーター】

(3)ルールの徹底

参集基準や行動基準について周知を行います。

(4)安否確認の徹底

災害発生時の安否の連絡手段を教えます。できれば、複数の通信手段を考えるのが望ましいです。伝言ダイヤルなどの使い方は、携帯カードに記載します。

BCP策定後に行う訓練の例

(1)参集訓練(対策本部員向け)

夜間、休日を想定し、対策本部員が事業所へ参集します。

(2)対策本部設置訓練(対策本部員向け)

災害が発生した想定で、対策本部を設営します。

(3)机上訓練(イメージ・トレーニング)(対策本部員向け)

災害発生から復旧までの流れを机上で確認します。

(4)安否確認訓練

施設内・外の職員等の安否を実際に確認します。

(5)実働訓練(実地)

機器の操作等、マニュアルに沿って実際に実施します。

(6)総合訓練

地域等と協力し、一連の流れを確認します。

訓練の注意点

始めは、簡単なケースでBCPの訓練を実施しましょう。
例えば、実際に対策本部を設置する予定の会議室に災害対策メンバーを集合し、対策本部の設置や役割の確認を行う訓練などが良いでしょう。
また訓練の進め方として、事前に訓練シナリオを決めておき、進行役が訓練シナリオを1ステップずつ説明し、各班が何を行うか考え、発表するような流れで進めると良いでしょう。この時に、回答できない場合や分からないことがあった場合は、記録を残しておき、BCPへの追記など改善に役立てましょう。

まとめ

ここまで、介護事業所におけるBCP(業務継続計画)について詳しく説明してきましたが、いかがでしたか?
BCPを策定する際は、介護サービス類型ごとの特性を理解したうえで、利用者・入所者や職員の安全を確保しながら、いかにサービスを継続するかという観点が重要となります。
BCPの策定は義務化への対応だけでなく、有事の際のマニュアルとしても重宝します。
また、介護記録や契約書等の重要書類を電子化しておくと、災害時に紛失するリスクを回避できます。
業務効率化だけでなく災害対策も両立したいとお考えの方は、クラウド型の介護ソフト『カイポケ』の導入をぜひご検討ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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