ケアマネジャーが高齢者虐待を見つけた時の対応とは?虐待防止のための対策や事例もご紹介



居宅介護支援事業所のケアマネジャーは、虐待が疑われる利用者様を発見することがあるかもしれません。

そのような時、「虐待を受けている利用者様を見つけたらどうすればいいの?」や「事業所の職員が利用者様に虐待しないように予防はどうすればいいの?」といった疑問がでてくるのではないでしょうか。

この記事では、居宅介護支援事業者の方々に向けて、ケアマネジャーが高齢者虐待を発見した際の対応や、虐待防止のための対策や虐待の事例について解説していきます。

目次

高齢者虐待防止法とは?

居宅介護支援事業者が遵守しなければならない法律の一つに、高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)があります。

高齢者虐待防止法とは、高齢者虐待が深刻な状況にある中、高齢者の尊厳保持のために虐待を防止し、高齢者の権利利益の擁護することを目的に定められた法律で、2006年4月1日から施行されています。

高齢者虐待とは?

この法律では、高齢者虐待について「養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待」と定義しています。

家族などによる高齢者虐待の相談・通報件数、虐待判断件数は以下のようになっています。

養護者による高齢者虐待件数

一方、介護事業所の職員などによる高齢者虐待の相談・通報件数、虐待判断件数は以下のようになっています。

養介護施設従事者等による高齢者虐待

ケアマネによる虐待の件数とは?

それでは、居宅介護支援事業所の職員による虐待はどのくらい発生しているのでしょうか。

厚生労働省の「令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」によると、令和3年度の居宅介護支援等における虐待の件数は『8件』となっています。

サービス別虐待発生件数

全体からするとごくわずかな件数ですが、居宅介護支援事業所の職員による虐待が発生しています。ですから、居宅介護支援事業所を運営するにあたり、家族やサービス事業所の職員からの虐待を防止するだけでなく、自事業所のケアマネによる虐待にも十分気を付ける必要があることが分かります。

高齢者虐待の分類と具体例とは?

ここからは、虐待の主な分類をご紹介します。

高齢者虐待は、暴力的な行為(身体的虐待)だけでなく、暴言や無視(心理的虐待)、必要な介護サービスの利用をさせない(介護・世話の放棄・放任)などの行為も含まれます。

それでは、それぞれの定義と具体例を確認していきましょう。

身体的虐待

高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

引用元:高齢者虐待防止法

【養護者による虐待の具体例】

【養介護事業者等による虐待の具体例】

介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)

高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。

引用元:高齢者虐待防止法

【養護者による虐待の具体例】

【養介護事業者等による虐待の具体例】

心理的虐待

高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

引用元:高齢者虐待防止法

【養護者による虐待の具体例】

【養介護事業者等による虐待の具体例】

性的虐待

高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。

引用元:高齢者虐待防止法

【養護者による虐待の具体例】

【養介護事業者等による虐待の具体例】

経済的虐待

高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

引用元:高齢者虐待防止法

【養護者による虐待の具体例】

【養介護事業者等による虐待の具体例】

ケアマネが対応した虐待の事例とは?

居宅介護支援事業所のケアマネジャーは、利用者様とかかわる中で、家族などからの虐待を疑う場面があるかもしれません。

ここからは、実際にケアマネジャーが虐待に遭遇し、対処した事例をご紹介します。

身体的虐待の事例

アルツハイマー型認知症の診断を受けている80代女性に、家庭内で身体拘束の疑いがあった事例です。

【事例の内容】

  • 本人は3年程前から認知症を患い、週3回デイサービスを利用しながら在宅での生活を送っている。1年前に孫が実家に戻ってからは、孫が中心となって本人の介護を行っている。 
  • 孫は子供の世話もしながら献身的に介護を行っているが、ケアマネジャーが自宅を訪問した際、本人の居室入口に柵があること、自宅の冷蔵庫にストッパー(自由に開閉できないようにする器具)を設置していることを知る。孫によると、本人が夜間に冷蔵庫を開け、中の食料を食べつくしてしまうため、やむを得ず設置したとのことであった。 
  • 他にも、一人で外出して家に帰れなくなり警察に保護された経験があることから、家族が外出する際には外鍵をつけて、本人が勝手に外に出られないようにしていることも聞き取った。こうした状況を知ったケアマネジャーは、本件は身体拘束にあたる可能性があるのではないかと考え、地域包括支援センターへ相談した。

【その後の対応】

  • 地域包括支援センターの保健師と、本人を担当するケアマネジャーが自宅を訪問。本人がデイサービスで不在時に孫との面談を行ったところ、孫は育児と並行して祖母の介護を行っていること、加えて特別養護老人ホームに入所する祖父の対応も求められることもある状況に心身の負担感を感じており、また本人が夜間活動するため恒常的に睡眠不足の状態にあることが聞き取られた。孫の話をよく傾聴し労わった上で、拘束のない介護をしていくことを目標とし、ケアマネジャーを中心として本人の生活状況の再アセスメントと介護サービスの調整を行うこととした。
  • 具体的には、本人が夜間に起きてしまう状況はデイサービスの利用がない日に特に目立つことから、生活リズムの見直しをすることし、朝は日光をよく浴びること、日中は孫や知人に付き添ってもらい外を散歩すること、夜は早めに部屋を暗くして足浴によりリラックスを促すことにより改善傾向が見られた。また夜間に冷蔵庫に執着するのは夕食をとったことを忘れてしまうことに起因していることが判明したため、従来本人と孫は時間をずらして食事をとっていたが、できる限り会話をしながら一緒に夕食をとるようにし、食事の記憶が残るような工夫を行った。
  • また、外鍵の使用については、日中に本人が一人になる時間帯については、福祉用具の認知症老人徘徊感知機器の活用と、近隣住民への見守りの協力依頼により、鍵を使わずにしばらく様子をみることとした。併せて、孫のレスパイトを図るため、2か月に1度ショートステイを利用することとした。

引用元:高齢者虐待対応事例集

心理的虐待・身体的虐待の事例

要介護2の80代の男性が、家庭内で娘から暴力や暴言を受けていた事例です。

【事例の内容】

  • デイサービス職員が「本人の身体に痣がある」と市町村に通報し虐待が発覚。市町村は通報後即座に本人のいるデイサービスに出向き、本人に聞き取りを行ったところ、「日常的に娘に叩かれている。床に頭を押さえつけられる、また、頻繁に怒鳴られる。」と訴えた。本人の承諾を得て体をみせてもらうと、上腕の広範囲に痣が認められた。デイサービス職員によると、ここ1カ月で痣や傷が3回ほど見られたという。

  • 数回の交渉の後、娘と話し合いの機会を設ける事ができた。娘は、悪意で暴力を振るった事は認めなかったが、介護の一環としてしつけのつもりで強く腕を握ったり、叩いたりしたことはあると認めた。 
  • 本人は、「今後もできれば娘と自宅で暮らし続けたいが、1週間ぐらいは娘と離れたい。」という。本人、娘と市町村の三者で話し合い、本人の契約によりショートステイを利用することになった。しかし、娘は、「宿泊するなら4泊5日以外認めない。」と宿泊日数に強いこだわりを見せ、本人の希望である1週間のショートステイ利用は頑として認めなかった。4泊5日にこだわる理由を尋ねるも、特段の理由は無かった。

【その後の対応】

  • 上腕に痣を確認する事は出来たが、それ以外に確認する事は出来ず、また、話し合いの結果、本人希望によるショートステイの利用が決まった。これらの事を勘案すると、緊急性が非常に高いとは言えない。本人契約により、特別養護老人ホームのショートステイを利用した。
  • 市町村からは、ショートステイの利用期間の延長を本人及び娘双方に提案したが、双方とも断固拒否。虐待の再発の恐れもあったが、市町村は娘と話し合いをし、今度虐待が起きれば、高齢者虐待防止法に則り施設へ措置入所しなければならない可能性がある事を伝え、また、娘の介護の負担について理解を示し必要であれば介護サービスの適切な調整を行える旨伝えた。 〇娘は「父を叩かない。イライラした時は父と離れる。」ことを紙に書いて約束し、今回は予定どおり4泊5日でショートステイを終了し自宅に戻った。 もともと毎日のようにサービス提供がされていたので、その際に身体のチェック、本人の状況確認等を行い、随時、ケアマネや市町村職員が自宅を訪問することで見守り体制を強化することとした。 
  • その後、本人の表情は明るくなり、娘が辛い時は本人がショートステイを利用するようになり、それ以降虐待の様子は見られない。娘に対しては、保健師の訪問を調整している。

引用元:高齢者虐待対応事例集

運営基準に定められたケアマネが虐待を防止するための対策とは?

居宅介護支援事業所の運営基準では、虐待防止のための取り組みを行うことが義務付けられています。

(虐待の防止)
第二十七条の二 指定居宅介護支援事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
一 当該指定居宅介護支援事業所における虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、介護支援専門員に周知徹底を図ること。
二 当該指定居宅介護支援事業所における虐待の防止のための指針を整備すること。
三 当該指定居宅介護支援事業所において、介護支援専門員に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。
四 前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。
引用元:指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準

これらの虐待の防止に関する措置は、2024年4月1日より義務化となります。

ここからは、運営基準の解釈通知に沿って、ケアマネジャーが虐待を防止するための対策について見ていきましょう。

居宅介護支援の虐待防止検討委員会とは?

虐待防止検討委員会は、虐待等の発生の防止・早期発見に加え、虐待等が発生した場合に確実に再発防止をするための対策を検討する委員会です。

委員会は定期的に開催することが必要で、テレビ電話装置等を活用しておこなうことができるとされています。

【虐待防止検討委員会の構成メンバー】

管理者を含む幅広い職種の職員

虐待防止の専門家を委員として積極的に活用することが望ましい

※構成メンバーの責務と役割分担を明確にすることが必要。

虐待防止検討委員会では、以下の事項について検討し、そこで得た結果を職員に周知徹底する必要があります。

【虐待防止検討委員会の検討事項】

  1. 虐待防止検討委員会その他事業所内の組織について
  2. 虐待防止のための指針・マニュアルの整備について
  3. 虐待防止のための職員研修の内容について
  4. 虐待等について、職員が相談・報告できる体制整備について
  5. 職員が高齢者虐待を把握した場合に、市町村への通報が迅速かつ適切に行われるための方法について
  6. 虐待等が発生した場合、その発生原因等の分析から得られる再発の確実な防止策について
  7. 再発の防止策を講じた際に、その効果の評価について

虐待防止検討委員会の開催は、「他のサービス事業者との連携により行うことも差し支えない」とされていますので、他の介護サービス事業所等を運営している場合は他事業所と協力して行うと良いでしょう。

居宅介護支援の虐待防止のための指針・マニュアルとは?

虐待防止のための指針・マニュアルには、以下の項目を盛り込む必要があります。

【虐待防止のためのマニュアル・指針の項目】

  1. 事業所における虐待の防止に関する基本的な考え方
  2. 虐待防止検討委員会その他事業所内の組織について
  3. 虐待の防止のための職員研修に関する基本方針
  4. 虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針
  5. 虐待等が発生した場合の相談・報告体制について
  6. 成年後見制度の利用支援について
  7. 虐待等への苦情解決方法について
  8. 利用者等に対する虐待防止マニュアル・指針の閲覧について
  9. その他虐待の防止の推進のために必要な事項

居宅介護支援の虐待防止のための研修とは?

居宅介護支援事業所の職員に対して実施する虐待防止のための研修は、

とされており、研修の実施内容については記録する必要があります。

また、虐待防止のための教育を職員に浸透させるために、

が重要とされています。

居宅介護支援の虐待防止の取り組みを実施するための担当者とは?

虐待防止検討委員会や研修の実施や、指針・マニュアルの整備などを適切に実施するために、虐待防止の取り組みを推進する専任の担当者を置く必要があります。

この担当者は、虐待防止検討委員会の責任者と同じ職員が務めることが望ましいとされています。

ケアマネが虐待を発見した際の対応とは?

下の図は、養護者等による高齢者虐待の相談・通報者の内訳を示しています。介護支援専門員は8,995人と、全体の29.5%を占めており、虐待が疑われるケースに遭遇する可能性が高いことが分かります。

それでは、居宅介護支援事業所のケアマネジャーが虐待や虐待が疑われるケースを発見した場合、どのような対応をとれば良いのでしょうか。

家族からの虐待が疑われる場合と、職員からの虐待が疑われる場合に分けて、それぞれ詳しく見ていきましょう。

家族からの虐待が疑われる場合

高齢者虐待防止法では、家族から虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村に通報しなければならないとされています。

(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第七条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。
引用元:高齢者虐待防止法

利用者様の中に虐待が疑われる方がいた場合、速やかに市町村または地域包括支援センターの高齢者虐待対応窓口に相談・通報する必要があります。また、サービス事業所などと連携を取りながら、今後の対応を考えましょう。

職員からの虐待が疑われる場合

高齢者虐待防止法では、事業所の職員が、自事業所の職員から虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村に通報しなければならないとされています。

(養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等)
第二十一条 養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
3 前二項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
4 養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けた高齢者は、その旨を市町村に届け出ることができる。
5 第十八条の規定は、第一項から第三項までの規定による通報又は前項の規定による届出の受理に関する事務を担当する部局の周知について準用する。
6 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項から第三項までの規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
7 養介護施設従事者等は、第一項から第三項までの規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。
引用元:高齢者虐待防止法

サービス事業所の職員から虐待を受けたと思われる利用者様を発見した場合は、速やかに市町村に通報・相談する必要があります。

まとめ

ここまで、高齢者虐待の定義や事例、実際に虐待を発見した場合の対応などについて述べてきましたが、いかがでしたでしょうか。

居宅介護支援事業所のケアマネジャーとして働くと、虐待が疑われる利用者様を担当することもあるでしょう。発見した場合の対応方法やその後の支援について、日頃から職員間で知識を共有していることが大切です。また、数は多くはありませんが、ケアマネジャーによる虐待も発生しています。職員による虐待を防止するための取り組みも確実に実行しましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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