通所介護事業計画書の記入例と様式
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介護事業の場合、福祉という公的支援の観点から、事業報告および決算のほかに、国や地方公共団体のように事業計画や予算にも重点が置かれています。介護事業に株式会社が参入するまでの間は、主に社会福祉法人が事業の運営を担っていました。社会福祉法人の場合、翌事業年度開始前までに事業計画および予算を理事会評議員会で決議しなければなりません。つまり、事業計画書および予算というのは、介護事業の運営の基礎を成すものです。
今回は、通所介護事業所における介護事業計画書の書き方について詳しく紹介します。一読いただき今後の参考にしてください。
目次
1.通所介護事業計画書とは
通所介護事業計画書とは、当該事業所が向かうべき方向性を定めたものになります。通所介護事業のその年度における運営方針を決め、その実現を図るための目標を掲げることで、年度における事業内容を明確にすることができます。
ステークホルダーへの周知
事業計画書は事業を推進していくために必要なことを、明瞭かつ簡潔に文書化したものであるので、経営者が職員、ご利用者およびそのご家族等といったステークホルダーに対し、その年度における事業計画を周知し実行するためのツールとして大きな役割を果たします。経営者がいかに立派であっても、その考えが職員を始めとしたステークホルダーに対し、周知されていなければ意味がありません。事業計画書は全員で共通認識しておきましょう。
金融機関の融資を受けるために綿密な事業計画書を作りましょう
金融機関の融資を受ける場合、事業の短期的、中期的、長期的な将来性を説明するため事業計画書が大きな役割を果たします。事業の運営方針、事業収支の見通し、返済能力等を事業計画書により、明確にかつ正確な方向性を位置付けることができれば、融資を受けやすくなるでしょう。
指定申請を受けるには事業計画書が必要です
新規で介護事業を行う場合、所轄庁から介護保険事業者の指定を受けなければなりません。指定を受けるためには指定申請書の提出が必要になります。事業計画書は指定申請時に求められる書類の一つです。事業計画書があまりに現実とかけ離れている、または計画が大雑把であるなど、事業計画の内容に不備がある場合は指定を受けられませんので注意しましょう。
2.通所介護事業計画書の記入例
はじめに
最近は一般企業と同様にレイアウトを重視して、事業計画書もパワーポイントで作成している介護事業所が増えてきています。
また、通所介護事業の場合、ご利用者およびその家族等を始め、ステークホルダーの多くが高齢者であるので、フォントと字体についても見やすくするとよいでしょう。
目次
事業計画書に目次がないケースが数多くあります。目次は一目で概要を理解いただき、その後の説明もスムーズに運ぶきっかけになるため、忘れずに作成しましょう。
経営方針と執行体制
法人の経営方針と執行体制について記載します。経営方針とは経営の最も基本的な目標で基本理念です。誰にでもすぐに浸透できるようにスローガンやキャッチフレーズであることが多いです(例えばダスキンは“喜びのタネをまこう”)。法人のロゴに載せておくと、多くの人の目に触れるでしょう。執行体制に関しては組織体系図も載せておくと、経営組織がより明確になるのではないでしょうか。
事業コンセプト
事業に関してのスローガンと、そのスローガンに関する説明を記載します。経営方針は経営の最も基本的な目標であるため原則として変更されませんが、事業に関してのスローガンは単年度の目標という位置づけが多く、毎年更新されます。
また、経営方針とは違い、具体的な数値を盛り込んだものをスローガンとしている介護事業所もあります。スローガンについては、経営者等が始めに決定して、各事業所で事業内容を具体化させる方法でも、事業計画書がある程度完成して、その年度の基本的方向性が明確になった段階でそれを言葉にする方法でも、スローガン決定までのプロセスは介護事業所それぞれの特徴があると思いますので、最も適切な方法で決めていただければと思います。
事業内容
事業内容に関する説明ついては、まずは運営基準に定める基本的な介護サービスを記載します。そして次に、その介護事業所独自で決めているサービス内容について記載します。運営基準に定める介護サービスは、国の方針転換等がない限り変更されることはありませんが、介護事業所で定める具体的なサービス内容については、人員配置状況または設備状況等の変化により環境が大きく変わるため、毎年変更されることがあり得ます。そのため、基本的なサービス内容とは区別しておくと、毎年の事業内容のメンテナンスがやりやすくなります。
2017年度 | 基本的サービス内容 | 介護事業所で定めるサービス内容 |
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入浴介助 | 入浴の提供および介助が必要なご利用者に対して、入浴(全身浴・部分浴)の介助や清拭(身体を拭く)、洗髪などを行います | 入浴・脱衣サポート担当職員1名がご利用者1人ずつの入浴を実施します |
ここだけ変更 | ||
2018年度 | 基本的サービス内容 | 介護事業所で定めるサービス内容 |
入浴介助 | 入浴の提供および介助が必要なご利用者に対して、入浴(全身浴・部分浴)の介助や清拭(身体を拭く)、洗髪などを行います | 入浴は脱衣サポート職員1名と入浴介助職員1名の2名体制でご利用者1人ずつの入浴を実施します |
営業方針
営業方針ではどのようにご利用者を確保していくのか、具体的に記載します。ご利用者が安定的に確保されており、なおかつ継続的な利用が見込めている介護事業所は、地域からの高い評判が大きな強みとなっていることが多いです。営業方針ではご利用者の確保に重点が置かれますが、継続利用を見込める魅力的な事業所とするにはどのような対策が必要なのか、同時に検討してはいかがでしょう。
財務計画
資金計画と利益計画とはいわゆる予算になります。事業所の安定運営には、事業収入をしっかり確保することが必要です。事業収入を上げるには、利用率と平均要介護度を上げる必要があり、そのためにはこれらの指標を分析し、目標数値を設定することが重要です。営業方針では利用率を上げるため、ご利用者の新規確保と継続利用の方針を定めていますが、財務計画ではその方針に従って具体的な数値目標を設定することになります。ただし、過度に高い目標は、組織自体を完全に利益追求主義にしてしまい、本来あるべきご利用者本位の質の高い支援が不可能になりかねません。全員が一丸となって、取り組める範囲内の目標設定がよいでしょう。
採用予定人数
新規ご利用者の確保に伴う、人員配置基準上における必要数が最低基準になりますが、職員の現場負担の軽減を図る目的や育児・介護休業といった福利厚生面での支援、職場定着への取り組みなど総合的に勘案して、採用予定人数を決めましょう。
また、2017年9月現在における有効求人倍率は、3.74倍と人材難の時代に突入しています。ハローワークや福祉人材センターのみではなく、求人広告や人材紹介会社の活用など幅広く人材確保に向けた取り組みを行うといいでしょう。
採用基準
年齢や必要資格など、採用者に求める条件を記載します。介護人材の確保が難しくなってきている状況ですので、優秀な人材の確保には、その事業所を選んで頂けるような条件等を設定していただくことが必要となります。
求める人物像
事業所が求める人物像について記載します。求める人物像にはその事業所の特色がよく表れます。求職者は求められている人物像により、自分に合う職場なのかどうかを考えています。
サービス提供計画
サービス提供における方針です。通所介護事業において最も重要なことは介護サービスの質にあります。通所介護事業所数はすでに全国で4万ヵ所を超えており、量的な整備は一定程度進められています。
しかしながら、介護のプロに見てもらうために通っているのに、ほとんど専門的な支援が受けられず状態が悪化した、事業所職員に介護の基本的な技術が身についていないためケガをさせてしまった等、事業所数の増加に比例して、質の悪い事業所も比例して増えている現状があります。そのため、国では介護サービスの質が高く専門的な支援を行っている事業所を、積極的に評価する仕組みを報酬として整備しました。つまり、基本報酬を減らす反面、質を高め加算を取得する経営が求められることになったため、質の悪い通所介護事業所というのは淘汰されることになります。サービス提供計画では、まずはどういうサービスを提供するのか、提供するサービスの質や専門性の向上にどう取り組み、今後のどういう事業展開を計画していくのか、を示すことが重要です。
3.まとめ
事業計画において、ご利用者の獲得や財務の目標といった経営面ばかりにスポットが当たり、肝心なサービス提供の計画が疎かになっている事業所が残念ながらあります。事業計画作成の上で最も重要なのは、方針をわかりやすく伝えられることです。そのため議論を重ねて計画を作成し、実行していきましょう。自分の事業所が自信をもってご利用者へ勧められること、ご利用者からの評判がいいこと、そのことがご利用者の獲得へつながり、事業所の発展に寄与するのではないでしょうか。
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